向中野あらかわ皮フ科

アトピー性皮膚炎

当院のアトピー性皮膚炎治療の特長

  • 経験豊富な医師とスタッフが、日々進歩するアトピー治療の勉強を怠らずに継続し、不安や疑問にも丁寧に対応しながら、安心して治療を受けられる環境を整えています。
  • 症状や生活スタイルに応じた治療プランを作成し、内服薬や外用薬、紫外線治療などを最適に組み合わせて治療しています。
  • 重症のアトピー性皮膚炎には必要に応じて大学病院や基幹病院と連携しながら各種抗体治療薬を適切に使用し、全身治療を行います。

アトピー性皮膚炎の症状

乳児期

生後数ヵ月から湿疹がみられます。主に口まわりや頬、頭部や髪の生え際にジクジクした湿潤型の湿疹が生じ、他に首まわりや背中、おむつまわりにも症状が出ることがあります。離乳食開始期にあたる生後6ヵ月頃に湿疹がピークとなることが多く、それを過ぎると改善していき、1歳頃になると顔面の湿疹が徐々に消失します。1歳半~2歳頃に症状がいったん落ち着く場合が多いです。

幼児期・学童期

肘や膝の関節の内側、首まわりなどを中心に湿疹が生じ、全身の乾燥が始まります。耳のつけ根が切れて赤くカサカサする症状(耳切れ)がみられることもあります。食物アレルギーが関与している場合があります。最も多いタイプのアトピー性皮膚炎です。

思春期・成人期

乳児期や幼児期にいったんアトピー性皮膚炎が落ち着いていた方が20歳前後から悪化したり、乳幼児の頃には症状がなかった方が20歳を超えてから発症したりします。成人の場合は食物アレルギーが関与することはほとんどありませんが、花粉やハウスダスト、ダニなどのアレルギーが原因で増悪することがあります。学童期以前の湿潤型の湿疹とは違い、思春期以降は身体の広範囲にわたって乾燥型の皮膚炎を起こします。頭皮に大量のフケが出る場合も多いです。

アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎には、アトピー素因や皮膚のバリア機能の低下、環境要因などの原因が複合的に関与しています。

アトピー素因

アトピー性皮膚炎の患者さんの多くがアトピー素因を持ちます。アトピー素因とは、両親のどちらかが気管支喘息やアレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を持っていたり、身体がアレルギー反応に関与するIgE抗体を作りやすい体質であったりすることをいいます。IgE抗体は皮膚の炎症やかゆみの原因になります。

皮膚のバリア機能の低下

皮膚の一番外側にある角層は、外からの異物の侵入や水分の蒸発による皮膚の乾燥を防ぐ機能を持っています。アトピー性皮膚炎の患者さんはこの角層の主成分であるセラミドが少ないため、角層の機能異常によって皮膚のバリア機能と水分を保持する能力が低下してしまい、外からの異物が容易に皮膚の中まで入りやすくなったり乾燥肌になったりします。乾燥肌を放っておくと湿疹やかゆみが悪化してしまうため、皮膚の保湿が重要になります。

環境要因

前述したように、アトピー性皮膚炎の患者さんは乾燥肌のため、外からの刺激が皮膚の内部に到達しやすくなっています。そして、それらの刺激をもたらすさまざまな環境要因が、アトピー性皮膚炎の原因の一つになっているといわれています。患者さんの年齢によっても異なりますが、ダニやハウスダスト、食物、汗、乾燥、掻破(かくこと)、物理化学的刺激、ストレスなどが環境要因になると知られています。

アトピー性皮膚炎の検査

当院では、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる環境要因を特定するため、39項目のアレルギー検査が一度の採血で行える「View39」という血液検査を提供しています。アレルギー症状があると医師が認めた場合は保険が適用される、とても人気のある検査です。

アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎の治療では、外用薬や内服薬、光線治療や抗体療法などが用いられます。

外用薬(保険治療)

アトピー性皮膚炎の治療で使用される外用薬には、下記のようなものがあります。

ステロイド
ステロイドは、アトピー性皮膚炎の治療のメインとなる外用薬です。外用には、症状が悪化している場合にのみ塗る「リアクティブ療法」と、ステロイドの強さを段々と弱いものに変えていき最終的には予防のために週に1~2回塗る、あるいは徐々に塗る回数を減らして外用する間隔を延ばしていく「プロアクティブ療法」があります。当院では、症状の経過をみて、適切な方法をご提案しています。まれに副作用として、皮膚が薄くなることや毛細血管が拡張して赤みが生じることがあります。
タクロリムス(プロトピック)
タクロリムスは、アレルギーの免疫反応を抑制する抗炎症作用により、アトピー性皮膚炎の赤みやかゆみを抑えます。ステロイドと違い、皮膚を薄くしたり毛細血管を拡張したりする副作用がないため、予防目的でも長期的に使用できます。ステロイドの外用による副作用が生じやすい、皮膚が薄い顔や首などにも使いやすい外用薬です。またタクロリムスはステロイドよりも分子量が大きく、正常なバリア機能を持った健康な皮膚からはほとんど体内に吸収されないため、全身性の副作用を起こすこともほとんどありません。ただし、炎症が強い場合に使用するとヒリヒリした刺激感があるため、維持期に向いているといえます。
JAK阻害薬(コレクチム)
炎症反応を引き起こす化学伝達物質の一つに炎症性サイトカインがあります。アトピー性皮膚炎などのアレルギー反応が関わる病気では、炎症性サイトカインが大きな役割を果たしています。特にインターロイキン(IL)は主要な炎症性サイトカインの一つで、ILの情報を伝達するためにはヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素が必要です。JAK阻害薬は、JAKへの阻害作用によって、ILなどの炎症性サイトカインのシグナル伝達を妨げます。その結果、サイトカインによって引き起こされる免疫細胞や炎症細胞の活性化を抑え、皮膚の炎症を軽減します。また、サイトカインによって引き起こされるかゆみなどを抑制する効果も期待できます。
PDE4阻害薬(モイゼルト)
モイゼルト(一般名:ジファミラスト)は、アトピー性皮膚炎の治療に使用される外用薬として、2022年6月1日に日本で発売されました。ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬として初の外用薬であり、炎症を引き起こすサイトカインの産生を抑えることで、抗炎症作用を発揮します。臨床試験で効果と安全性が確認されており、アトピー性皮膚炎に対する新しい治療の選択肢として期待されています。
タピナロフ(ブイタマークリーム)
タピナロフは、芳香族炭化水素受容体(AhR)を活性化することにより、さまざまな遺伝子に働きかけ、皮膚の炎症を抑制します。12歳以上に、1日1回、皮疹の部位や範囲に応じて適量を塗るクリーム剤です。

内服薬

内服薬は、抗アレルギー薬を中心に、症状に応じて漢方薬なども加えつつ、外用薬と合わせて処方することが多いです。

抗アレルギー薬
抗アレルギー薬は、アトピー性皮膚炎によるかゆみを抑えるために補助的に内服します。長期間でも安全に使用できます。また寝ている間は副交感神経が優位になるためかゆみが強くなり、就寝中に患部を掻き壊して悪化させてしまうことがありますが、抗アレルギー薬を服用することでこれを防ぐことができます。副作用はほとんどありませんが、日中に眠くなる場合は、抗アレルギー薬の種類を変えて患者さんに適したものを見つけ出します。
シクロスポリン(ネオーラル)
シクロスポリンは、乾癬やアトピー性皮膚炎、自己免疫疾患など、免疫の調整がうまく働かないことによって起こる皮膚炎疾患などに使用されます。シクロスポリンを使えるのは、既存の治療でコントロールできない成人の最重症・難治症例で、断続的に使用を繰り返すことは可能ですが、使用を開始・再開してから3ヵ月以内に休薬することが求められています。治療効果は高いのですが、高血圧や腎機能障害を引き起こすことがあるため、定期的な血圧測定と血液検査が必要です。
JAK阻害薬内服
JAK阻害薬を内服することで、皮膚の過剰な免疫反応を抑え、皮膚の炎症を抑制して、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。中等症以上のアトピー性皮膚炎で、ステロイドやタクロリムスの外用などによる治療を6ヵ月以上行っても十分な効果が得られなかった方が適応となります。日本で使用可能なJAK阻害薬にはオルミエントやリンヴォック、サイバインコなどがあります。これらは、アトピー性皮膚炎の症状を劇的に改善する効果が期待されていますが、一方で免疫抑制作用に伴い様々な副作用が発生する可能性もあります。そのため、治療前および治療中には定期的な血液検査や感染症のスクリーニングが必要となります。また金額的にも非常に高額な薬剤となるため、使用するにあたっては、慎重な検討を行うことが大切です。当院では大学病院や基幹病院との連携により治療をすすめていくことが重要と考えております。

光線療法(紫外線治療)

ナローバンドUVB
ナローバンドUVBは、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬、掌蹠膿疱症、円形脱毛症、尋常性白斑など、難治性の皮膚疾患に対して有効な保険適用の光線療法です。紫外線の1種であるUVBの中でも、皮膚疾患に効果が認められている311~313ナノメートルという幅の狭い波長(ナローバンド)だけを照射するため、紫外線による光老化などの副作用を大幅に抑えることができ、小児や妊婦の方でも安心して治療を受けられます。当院では、全身型ナローバンドUVB照射器を完備しています。
エキシマライト
エキシマライトによる光線療法では、ナローバンドUVBが311~313ナノメートルという波長領域の紫外線を照射するのに対して、より治療効果が高い308ナノメートルの紫外線のみを患部に向けてピンポイントかつ強力に照射でき、患部だけを安全かつ効果的に治療することが可能です。アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の治療において、他の治療法と併用することで、より高い治療効果が期待できます。
エキシマライト光線療法とは、308nmのUVB波長を利用して過剰に反応している免疫を制御する方法です。アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の治療において、他の治療法と併用することで、より高い治療効果が期待できます。

抗体療法

抗体療法は、これまでにお話した治療方法で効果がみられない重症の場合に検討されます。従来の治療方法は皮膚のバリア機能が低下したり、炎症反応が進んだりした症状を外用薬や内服薬で抑制するための治療ですが、抗体療法は炎症が引き起こされる仕組みを根本から抑制する治療です。重症のアトピー性皮膚炎は大学病院や基幹病院との連携により治療をすすめていくことも重要と考えております。

デュピクセント(デュピルマブ)
デュピクセントは皮下注射で使用する注射薬です。アトピー性皮膚炎には、炎症性サイトカインと呼ばれる物質が関与しています。デュピクセントは、アトピー性皮膚炎の病態の中心的な要因であるサイトカインIL-4、IL-13両方の働きをブロックすることで、皮膚の炎症やかゆみを抑え、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。効果と安全性は高いのですが、費用が高額になります。
イブグリース(レブリキズマブ)
イブグリースも、アトピー性皮膚炎の症状を改善するために使用される生物学的製剤です。デュピクセントと同様に皮下注射で使用します。この薬は、アトピー性皮膚炎の悪化に関連するIL-13の働きをブロックします。IL-13は皮膚のバリア機能を低下させ、かゆみを引き起こす原因となっており、そのシグナル伝達を阻害することで炎症やかゆみを軽減し、皮膚の状態を改善します。
アドトラーザ(トラロキヌマブ)
アドトラーザも、アトピー性皮膚炎の治療に用いられる新しい生物学的製剤です。2023年9月に日本で発売され、2024年4月からは在宅自己注射も可能になりました。イブグリースと同様にIL-13というサイトカインを選択的に阻害することで、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。IL-13は、アトピー性皮膚炎の病態に大きな影響を及ぼし、炎症反応を引き起こすため、その作用を抑えることが治療の鍵になると考えられています。
ミチーガ(ネモリズマブ)
ミチーガは、主にアトピー性皮膚炎のかゆみを抑えることを目的としている薬です。こちらも皮下注射で使用します。IL-31というサイトカインの働きをブロックすることで、かゆみの感覚を軽減します。従来の治療法(ステロイド外用剤や抗ヒスタミン剤など)で十分な効果が得られない中等症以上のアトピー性皮膚炎の患者様に適応されます。かゆみを改善することはできますが、発疹自体は増悪することがあるため、注意が必要です。現在は、蕁麻疹や痒疹にも適用が拡大しています。

保湿

アトピー性皮膚炎の治療では、症状があるときだけでなく、症状が落ち着いているときでも日常的に保湿を行い、皮膚を乾燥から守ることが重要です。保湿剤によるスキンケアをしっかりと行い、皮膚のバリア機能を保持するようにしましょう。

Q&A

アトピー性皮膚炎の悪化因子にはどんなものがありますか?
通常の治療を行ってもなかなか良くならないアトピー性皮膚炎の治療では、悪化因子を調べ、取り除くこともとても大切なことです。まず、アレルギーの原因となるアレルゲンについては年齢により多少違いがあり、乳幼児では食物アレルゲン、それ以降ではダニ、ハウスダストなどの環境アレルゲンが関係していることがあります。しかし、やみくもにアレルゲン検査を行って、それだけで判断するのではなく、実際にそれらで悪化するかを確認する必要があります。
 刺激因子としての悪化因子として、汗で悪化するという方も多く、また、空気の乾燥や、皮膚に触れる様々な物質、ストレスなども見落とせない悪化因子です。
アトピー性皮膚炎に対して日常生活で注意すべきことは何ですか?
日常生活では、保湿ケアをしっかり行うことが大切です。また、かゆみを引き起こす環境要因(例えばハウスダストやストレス)を避けることや、刺激の少ない衣類を選ぶことも重要です。

(参考文献)
日本皮膚科学会 「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024」